Fool































花見を途中で抜けだして、ちょいと土方の阿呆に届け物をしてやり、なんとな〜く、もう一度花見の会場に戻る気にもなれなくてそのままよろず屋に帰って来た。
それがそもそもの始まりだったってわけだ。







「銀時、今更つれない事を言うな。おまえと俺の仲だろう?」

「銀さんっ!やっぱり桂さんとそういう仲だったんですか?!うそつきっ!」


う〜ん・・・なんだろ、この軽く修羅場なカンジ。
いやいやいや、銀さん何にもしてないから。ただ帰って来ただけだから。
事情は分らねえが、ここに転がってる酒瓶やら湯のみやら酒臭せえ空気やらから察するに、こいつらはココで相当飲んで酔っ払った挙句、何故か俺に絡んでるっていう状況。


「そうだ、銀時と俺はそういう仲なのだ。子供はひっこんでいるがいい。」

「うわぁ!銀さんのスケベ!淫乱!色魔!不潔!!」


はいはい、銀さん、スケベですよ。
確かにあの頃は若かったし、色々元気だったし、ヅラとも一度や二度・・・・つか、三度や四度や五度・・・・?くらい?そーゆーコトにも至ったけれども、今は、全然・・・・
つーか、たまに、時々・・・?週一くらい?・・・ま、焼けぼっくいになんとやらってさ、
ほらぁ、大人だからこうね、あるわけよ、ナニかと。
でも、恋人は新ちゃんだけだって言ってるでしょ。


「では、俺とのことは遊びだ、と?」


だ〜か〜ら〜。大人がそこで余裕失くしちゃダメだろって。そんなおまえ、遊びにも種類があんだろ、種類が。ゆきずりにちょこっとつまみ食いとか、帰りがけにお会計が待ってるとか、そーゆーのとは違うわけでしょ?


「やだーっ!それじゃ、普段は他人のフリ〜だけど体はいつでもひとつ〜みたいな、凄い濃い感じがするぅ!!」


何、その演歌みたいなフレーズ・・?
濃くないよ、全然。もうお互いいい歳だから、そりゃもうあっさりしちゃったモンで・・・・


「何か、銀時。おまえ、新八くんとはねっとりじっとり濃厚なのに、俺とはあっさりさっぱりお手軽に済ませてるのか?!」


言葉のアヤ!!
あっさりさっぱりで失神してんの、おまえ?!え?!


「し・・・っ失神・・・・って!!!!!」


いやっ!!だから、ほら、コイツも歳だからっ!!


「誰が歳だっ!ええい、銀時、刀をとれっ!!」

「銀さんのばかぁ!!銀さん殺して僕も死ぬっ!!!」



え・・・・ちょ、待って・・・・

何も、そんな、ええええっ待てってーーーーーっ!!!





















すごい、寝汗だった。










「・・・・夢・・・・」


ぜえぜえ、はあはあ、と肩で呼吸をしながら銀時はあたりを見回した。
ソファの下には空になった酒瓶が転がっていて、テーブルの上には湯のみと裂きイカの屑が残ったビニール袋。

夢の中で酒臭かったのは実際ココがそうだったのであって、酔っぱらっていたのは自分だったのか、とまずそこに納得した。
それから、ひょっとして桂か新八がいやしないかと恐る恐る気配を窺ったが、動く人の気配は感じられず今家にいるのは銀時ひとりだけのようだ。


「はあ〜・・・・なんつーリアルに恐ろしい夢見てんだよ、俺ってば・・・・」


思わず潜めていた息をほっと吐き出して、ついでにだらっとソファの背にもたれ、天井を仰ぐ。


「銀ちゃん、ちょっとお疲れかしら・・・・」


そう独りごちてみたものの、疲れるほどの事は何もしていなかった、と思い当たった。それならきっと、真選組からちょろまかしてきたあの酒が悪かったのだろう。安物の粗悪品だったのに違いない。
お上の組織だから予算はあるはずなのに、誰の采配なのかしみったれているのだ、あいつらは。仕方がない、ちょっと糖分を摂って酔いをさまそうと、銀時は立ち上がった。

いちご牛乳が冷蔵庫にあったはず、と行きかけて。



ぱさり、と何か布が擦れるような音が寝室の方からした。



(?)


午後も遅い時刻ではあるが夕暮れ時とまではいかないから、あれだけのご馳走が並んでいた花見の席から神楽が腰を上げたとは思えず、ならば定春も、当然新八も戻ってはいないだろう。
年がら年中、スリルに満ちたギリギリ生活を送るよろず屋に好んで入る泥棒もいはしないはずだが、金目のものはなくともここには坂田銀時がいる。


(酔っぱらってる時にあんまり過激な運動はしたくないんだけどぉ・・・・)


それでも、木刀を脇に構えつつ、銀時は寝室の襖をそろりと開けた。


そして─────








「!!!!」







開けて、すぐに、閉める。






(何、今のぉっ?!)






壁に背中を貼り付けて、息を殺す。
過激な運動を強要するようなキナ臭い輩がいたわけではない。


だが・・・・。


(布団が敷いてあった・・・・・・よな?)


そしてそこに・・・・。


(新八とヅラ・・・・・・が、お休みだった・・・・よね?)


しかも・・・・・。


(なんか過激な運動した後みたいな、寝乱れ具合で・・・・・?!)


ついでに言うと・・・・・・・。


(そのふたりの真中に・・・・・ちょうどお一人様分の空白があった・・・・・かもっ?!)






ぶんぶんぶん、と華麗な天パ頭を振り、落ちつけ銀時、深呼吸〜、すう〜、はあ〜、はい、も一回、すう〜、はあ〜・・・と己を厳しく戒める。





冷静に、今見た光景を分析すると、こうだ。



寝室に布団が敷いてあった。昼間だが、まあ、寝室だから布団はいい。敷いてあっても、何とかセーフ。

そこに、新八と桂が眠っていた。敢えて、敢えて強調するが、ふたりは絡み合っていたわけではない。たまたま、寝室に布団が敷いてあって、たまたま同時に眠くなって、たまたまふたりして心地よく昼寝してしまった、ということもなくはない。だとしたら寝巻姿なのはセーフだ。全然、セーフだろう。寝巻がすこーし乱れていたのは、寝相が悪いせいなんだろう。セーフ。

しかし、ふたりの間には不自然な空間があった。



この、空間が。





いや、これはもう一度確かめる必要がある。
確かにちょうど人が一人、そこにいたかのように空いていたことはいたが、それはともかくとして、その枕元に何やら怪しげな紙屑が散乱していたようないないような・・・・。この紙屑の内容によっては痛恨のアウトだ─────


(違う・・・絶対に、そんなはずはない!だって、銀さん、ほら、ちゃんと着物着てるしっ!!ふたり失神させといてこれだけ元気なわけないでしょっ!!銀ちゃん、イイ歳だからっ!!おっさんだからっ!!)


あの妙な悪夢のせいで妄想が暴走しているのだ、そうに違いない、と自らを諌め、もう一度、そろそろと襖に手を掛ける。大丈夫、そんな訳はない。そんなコトがあったのだとしたらいくら酔っても忘れるわけがないのだ。憧れの3p・・・・いや、その・・・。



すすすすす、とゆっくり静かに襖を開き、意を決して中を覗き込む。





「あ・・・銀時・・・・」


ぎくっと銀時の背筋が凍りついた。


「ヅ・・・・ヅラ・・・・・?」

「・・・どこへ行っていたのだ・・・?俺たちを放っておいて・・・・」





アウトか?!
アウトなのか?!





気だるげに半ばほど目を開いたものの、体を起こそうとはせずに艶めかしい声音で語りかける桂を、銀時は思わず凝視してしまった。襦袢を着てはいるが、しどけなく乱れたその襟元からは薄い胸板が露わになっているし、袖はかろうじて腕に残っているものの滑らかなラインを描く肩はすっかりむき出しになっている。
これでは何も着ていないのと同じこと───
いや、むしろそれよりさらに悪質な色っぽさだ。



「ん・・・・何・・・?銀さん・・・・?」

「新八・・・・」

「・・・何してるの、早くこっち・・・・戻ってきてぇ・・・・」


凍りついた背筋が、今度はぞわりとうち震えた。






アウトだろーっ!!
これはもう、間違いなくアウトだぁーっ!






もぞ、と身じろいだ拍子に薄い掛け物が滑り落ち、現れた新八の脚は瑞々しく張りつめた眩しい素肌で、その奥のいやらし・・いや、カワイ・・・いやいやいや、・・・・所謂ところのヒ・ミ・ツの箇所にもそれを覆い隠す布地がないことは一目瞭然だった。


そして例の怪しさMAXな紙屑も、間違いなく、確実に、しかも相当数、枕元に散らばっている。


「銀時・・・早くここへ・・・・」

「・・・・ちょ・・・・っと、待って・・・・?」

「・・・んんんっ銀さぁんっ・・・約束したじゃない・・・・」

「・・・・な、・・・・なんだっけ・・・・?」

「24時間頑張る、と。」

「え・・・・・・・・・24時間・・・・・・・・・?」

「ふたりとも可愛がり続けるって。」

「ふ・・・・・・・・・ふたりとも・・・・・・・?」

「・・・銀時、まだ、足りない・・・・・」

「・・・銀さぁん・・・・ねえ、もっとぉ・・・・」






足りない、もっとぉ・・・って、ナニを?








いいや、訊くまい。

坂田銀時、かれこれ三十路。生まれついての男前、ついでに素直で憎めないお人柄の好青年。日頃は死んだ魚のような目をして無気力に、怠惰に、ゆるーく人生を過ごしているが、その気になれば江戸を、日本を、いや、世界を変えることのできる男。
来るものは拒まず、去る者も追う、精力絶倫、男の中の男、サムライの中のサムライ─────
それが、坂田銀時だ。















「ヅラぁ、新八ぃ。・・・・まだ、足りねえってか?あぁ?もっと欲しいってか?」










だったらくれてやろうじゃないのぉ。

新八を桂に貫かせ、その桂を後ろから存分に可愛がってやろうか。
それとも、銀時に犯されて身も世もなく啼き狂う新八を、桂に跨がせてやろうか。
いっそどちらか片方を丁寧に愛撫してやって、残された片方をとことん焦らしてやるのもいいかもしれない。
焦らされた方がつつしみも恥じらいも忘れて自ら快楽を求め始めたら、ご褒美にそちらへ愛を囁いてやるなんていうのも、そそられる。


「さあ、どっちから可愛がってほしい?」


木刀を置き、ベルトと帯を解きながら、銀時は片頬に笑みを浮かべた。
間に挟まれて殺すの殺されるのと物騒な修羅場はごめんだが、こういう事ならたまにはいいかもしれない。

それに記憶にはないがどうやらすでに一回やっちまったらしいし?
一回も二回も同じだ、コノヤロー♪と、銀時は、ふたりの間めがけてダイブした。
























「エイプリルフールですよ、銀さん。」




バチン、と。
景気の良い音がして、右の頬に痛みが走る。




「え・・・?」

「やはりこういうコトを夢見ていたのだな、銀時・・・」




バチーン、と今度は左の頬に。




「えええ?!」

「罪の意識に苛まれて、泣いて謝るか、半狂乱で飛び出していくか、いっそ切腹してみせるか、と思ってたのに・・・何ヤル気満々になってンですか、アンタ!!!」

「腐っているぞ、銀時!!攘夷派に戻れ、その根性、叩き直してやるっ!!」

「待てコラ!汚ねえぞ!男の純情弄びやがって、おまえら鬼か?!え、鬼畜か?!」

「何が純情ですか・・・結局、桂さんともそういう関係だったくせに・・・・」

「あら・・・・・」

「まだ未成年の新八くんのチラリズムに激しく反応しおって・・犯罪者だな、貴様・・・・」

「いや、だから、それは、ほら、ねえ?」



たじたじと後ろへ後ずさる銀時を、桂と新八が追いつめる。
これは、あの夢よりもヤバい気配なのではないか─────
桂はいつの間にか刀を手にしているし、新八の目は完全にすわっている。


「ちょ・・・は、話し合おう、な、な?エイプリルフールなんでしょ?冗談でしょ?やだなあもう、ふたりともぉ〜!」

「いいですよ・・・果たし合いましょうか・・・・」

「そうだな、果たし合おう。」

「ちがっ!何無理矢理韻を踏んだ感じにしてんの?!け、警察呼ぶよっ?!」

「へえ・・・この場に沖田さんとか呼んだらさらに激しい修羅場になったりして・・・」

「ないないないないない、それはなーーーーーーいっ!!!」

「ふ・・・・真選組もまとめて潰してくれよう、さあ、警察を呼べっ!!!」

「うわあ、革命おきちゃうでしょっそれ!!嘘っ!警察呼ぶなんて嘘っ!!大体、今土方くんとかすごく忙しそうだったからっ!!来てくんないと思うよ!!」

「えええっ銀さん、まさか土方さんとも・・・・っ?!」

「やめてぇっ!!それ、もっとナイからぁっ!!!!」

「警察が来ないのなら私刑確定だな。貴様も侍なら潔く覚悟を決めろ!新八くん、こいつを押さえろ!」

「な、な、な、ナニする気ぃ?!桂銀はないよ?!ソレは超超超マイナーだよ?!」

「うるさい。貴様のそのぶったるんだ性根を叩き直すために月代を剃ってやるのだ。」

「ぎゃああっ!厭ぁっ!!それだけはやめてぇぇっ!!!」

「黙れ、浮気者っ!!!」














春、四月。
桜並木に桜吹雪。
よろず屋に、銀髪が舞う。






















end













gin's works @ 2011.04.01up