秘密───He’s my HERO───







仕事の後、ふたりして酒を飲んだ。
珍しくバニーも調子よくグラスを干し、気が付けばテーブルの上には何本もの空ボトル。
そして、まあ、当たり前に今はベッドの中、という次第だ。




「あなたヒーローでしょう?」




勿論、そうだ。
俺はワイルドタイガーだ。ヒーローだ。間違っちゃいねえ。

「でもな、バニー?ヒーローにだってできることとできねえことがあるんじゃね?」

「あなたの口からそんな後ろ向きな言葉は聞きたくありません!」

いや。
後ろ向き、ってのとは違うだろ?

「あなたはヒーローで、楓ちゃんのお父さんで、そして僕の恋人ですよね?!」

そーよー?
不肖ワタクシ、稼業はヒーロー、愛する娘と愛する恋人を持つ絶賛リア充、
幸せ真っ盛りのおじさんよ?
でも────

「だったら!楓ちゃんが“お兄ちゃんが欲しい!”って言ってるんですから、僕が“お兄ちゃん”を
 産むのが筋ってものでしょう?!」

「無理だろッ?!」

「いいえ!ヒーローは何だってできるはずです!僕だってヒーローですし、ハンサムですから
 何だってやってみせます!」

「落ち着け、バニー。ヒーローもハンサムも関係ねえだろ?100億歩譲っておまえを孕ませても、
 産んだ子どもはどうやったって楓の弟か妹だぞ?」

もう説得する内容すら支離滅裂だ。
100億歩譲ったって、残念ながら男を孕ませるほどの能力は、俺にはない。

「虎徹さんの意気地なし!!」

「意気地の問題でもねえだろ?!」

「育児の問題ならありませんとも!僕は万能ですから!」

「さらっとオヤジも卒倒するレベルのダジャレ持ち出すな!」

酔っぱらってるんだ、こいつは。
今日は結構手こずったから、酒の回りも早かったんだ。
だからこんな血迷った無茶を俺に迫るんだな────

「なあ、バニー?おまえの望みは何でも叶えてやりてえけどよ?NEXTだろうがヒーローだろうが
 物事には道理とか、法則とか、……とにかく色々と制約が────」

俺は精一杯冷静に、そして優しく、バニーに語りかけたつもりだ。
だがバニーは、ぎゅうっと俺に裸のからだを投げ出してしがみつき、クスン、と小さく鼻を鳴らした。

「お…おい、バニー…」

「無理も無茶も無謀も、シュテルンビルトの平和のためにあなたはいつでもやらかすじゃないですか。
 なのに、僕の為にはできないって言うんですか……」

「バニー……」

何を言ってるんだ。
おまえの為なら俺は命だって張るに決まってるだろう。
俺は微かに震える、いつになく頼りない恋人の肩を腕の中へ抱えこみ、強く抱きしめた。

「……分かったよ、バニー。やってみよう。」

「虎徹さん…!」

バニーの火照る肌に自分の肌を重ね、そのままそっとマットの上へ押し倒す。
絡みついてくる長い手足がいつも以上に熱い。


「あ……虎徹さ……」

ああ、バニー。

勿論、誠心誠意、頑張ってみるよ。
俺がおまえのヒーローである為に必要な努力は惜しまないさ。
全身全霊でもって力を尽くすよ。

「虎徹さん……こ……ああ……っ」

でも、な。

「んっ……」

やってはみるけど。

「あああっ…!」

………無理だろうなあ………
















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